ヘヴィメタルの映画と言えば、この作品ではないだろうか。熱狂を巻き起こし、ヘヴィメタルのファンはもちろんのこと、それ以外の方にも認知されるきっかけとなった。本作は2009年のアメリカ映画である。原題は” ANVIL! THE STORY OF ANVIL”である。1980年代から活動するカナダのスラッシュメタルバンドANVILの2005年~2006年の活動を追ったドキュメンタリー映画である。
あらすじはこうだ。ボーカル&ギターのスティーヴ・“リップス”・クドローとドラムのロブ・ライナーは1973年にANVILの前身となるRIPSを結成した。ANVILとなり、1984年には日本のスーパーロックフェスティバルに参加した。その年に参加したバンドSCORPIONS、WHITESNAKE、BON JOVI、MICHAEL SCHENKER GROUPなどはその後ヒットを飛ばしビッグになったが、ANVILはビッグになれなかった。30年後の2005年には音楽だけでは生計が立てられず、スティーヴ・“リップス”・クドローは給食配給センターで働き、ロブ・ライナーは建設作業をしていた。そんな中でも、彼らは音楽でビッグになることを夢見て、あきらめなかった。久しぶりのヨーロッパツアーを実施するが、たくさんの困難に直面した。中には1万人規模の会場で観客が100人程度なんてこともあった。アルバムを作る際に、有名プロデューサーを呼ぶため多額の借金をした。メンバー同士でけんかもした。しかし、取り扱ってくれるメジャーレーベルが見つからなかった。そんな中、日本のLoud Park 06への参加オファーが届く。1984年以来の来日公演はベテランなのにフェスのトップバッターで不安を覚える。大きな会場でもし観客がいなかったら。舞台裏を憂慮しながら歩いていき舞台袖に到着すると、そこにはあふれんばかりの観客と声援が待っていた。
ラストの光景はとても感動した。ヘヴィメタルは決して大衆向けとは言えず、ビッグになったバンドはほんの一握りだ。やめていくバンド、音楽性を変えていくバンドがいる中で、ANVILの2人は変わらず続けていった。それぞれかつて有名バンドに誘われたこともあったらしいが、ANVILでビッグになることを夢見てあきらめなかった。友情とあきらめないことの大切さを映画が教えてくれた。また、幸せのかたちについても考えさせられる内容だった。
後日談であるが、ANVILは映画PRのため2009年に再来日した。Loud Park 09にもヘッドライナーとして参加した。下記のインタビューによれば、2006年から音楽のみで生計を立てられるようになったようだ。ヘヴィメタルという狭いマーケットの中で、それでもヘヴィメタルを信じて貫き通した男たちの感動の実話である。大好きなヘヴィメタルが一般的にも知られるようになってうれしい限りである。
2019年のANVILインタビュー記事
DVDにはサウンドトラック扱いでANVILの13枚目のアルバム”THIS IS THIRTEEN”が付属した。これが映画で話していたプロデューサーを雇うために借金したり、製作中にけんかもしたりしたあのアルバムだ。アルバムタイトルは頭文字がシンメトリーになるようになっていて、様式美的なところがかっこいい。神秘的なアートワークに、サウンドプロダクションがよい。タイトル曲の” This Is Thirteen”はヘヴィなミドルテンポの曲で、リフやサビがくせになる。そのほか曲名がそのままサビになっていて親しみやすい。ボーナストラックであるが彼らの名曲”Metal On Metal”や”666”も収録されていて、この映画から入ったファンにもやさしいアルバムとなっている。
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